仙台高等裁判所秋田支部 昭和63年(ネ)91号 判決 1992年3月18日
主文
一、原判決主文第一、二項を次のとおり変更する。
1. 被控訴人と控訴人後藤常寿との間で、控訴人後藤秀雄が控訴人後藤常寿に対し別紙物件目録一ないし六、九ないし一四及び一六記載の各土地についてした贈与契約を取消す。
2. 控訴人後藤常寿は、右各土地につき秋田地方法務局大曲支局昭和六一年五月一〇日受付第五九九一号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
3. 被控訴人のその余の請求を棄却する。
二、控訴人後藤秀雄の控訴を棄却する。
三、被控訴人と控訴人後藤常寿との間で生じた訴訟費用は第一、二審を通じて二分し、その一を被控訴人の、その余を同控訴人の負担とし、控訴人後藤秀雄の控訴費用は同控訴人の負担とする。
事実
一、控訴人らは「原判決を取消す。被控訴人の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求め、なお、詐害行為取消請求及びこれに伴う所有権移転登記抹消登記手続請求の対象となる土地を原判決添付目録(一)記載の各土地(以下「本件農地」という。)から一部を除外し、結局本判決別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)の限度に減縮した。
二、当事者双方の主張は、当審で新たになされた左記1ないし4の各主張を付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1. 被控訴人
詐害行為取消権の行使により保全されるべき被控訴人の債権額は、本件貸金残元本二三五二万五二六〇円のほか、控訴人らの抗争によつて審理が長期化している本件の場合は、詐害行為後の遅延損害金も右債権額に含めるべきであるから、これに対する昭和六一年一一月一一日から平成三年二月二七日までの年一四パーセント(佐藤所有の不動産に対する競売申立の際約定より一パーセント引下げて一四パーセントとした。)の割合による遅延損害金一四一四万八六七〇円の合計三七六七万三九三〇円である。
2. 控訴人らの主張その一
控訴人秀雄は昭和五五年頃被控訴人に当座預金を開設して頻繁に取引をし、証書の書換えなども頻繁に行つていた関係上、本件連帯保証については、被控訴人の担当者に言われるままに、しかも当時白内障を患つていて、昭和五七、五八年頃には眼の手術を受けたほどに視力が劣つていたため、自分の眼で内容を確認しないまま、信用金庫取引約定書(甲第一号証)、金銭消費貸借証書(甲第三号証)、根抵当権設定契約証書(甲第四号証)などの連帯保証人欄に署名捺印したのであり、控訴人秀雄には連帯保証の意思は全くなかつたものである。
3. 控訴人らの主張その二
(一) 原審で控訴人らは、請求原因2(二)の事実中、本件贈与の結果被控訴人が控訴人秀雄に対する本件債権の満足を完全には受けえなくなつたことを認める旨の陳述をしたが、これを撤回する。
詐害行為取消権の客観的要件である主要事実は、債務者が債権者を害する法律行為をしたことであり、無資力であることは詐害行為を推認させる間接事実に過ぎないか規範的事実のようなものである。従つて、これについての自白は裁判所及び当事者を拘束するものではなく、控訴人らは自由にこれを撤回することができる。
仮に、無資力であることが主要事実に該るとしても、本件贈与のなされた昭和六〇年一一月二五日当時、本件農地の価額は合計八一〇七万五五〇〇円であり、控訴人秀雄はその他にも価額合計約三五五〇万円に達する土地数筆の外、原判決添付目録(二)記載の宅地(以下「本件宅地」という。)など多数の資産を有しており、控訴人秀雄は当時無資力ではなかつたのである。ところが、控訴人秀雄は、原審第一三回口頭弁論において裁判官からの口頭による求釈明に対し、耳が悪く、意味を理解しないまま勘違いで無資力を認めるかのように代理人に述べ、これを受けて代理人がその旨回答したものである。従つて、控訴人らの自白は真実に反し、かつ錯誤に基づくものであるから、その撤回は許されるべきである。
(二) 本件詐害行為取消の対象になっている不動産は地目が田であるが、田地は農業を営む者にとつて生存を維持する上で重要であり、かつ、先祖から引継いだ特に愛着の強いものであるから、債権者が債権回収をするための債務者の最後の財産と位置づけられるべきである。しかるに、控訴人秀雄には宅地など他に換価しやすい不動産があるのに、被控訴人は金融機関であるにもかかわらず控訴人秀雄の財産調査を怠り、漫然と本件農地全部について本件贈与の取消を求めているのであって、右詐害行為取消権の行使は権利の濫用であつて許されない。
(三) 本件贈与当時控訴人秀雄は本件農地の他に価額五〇〇〇万円以上の不動産を所有していたのであるから、本件土地を控訴人常寿に贈与したからといって被控訴人を害することにはならず、従つて、控訴人秀雄には詐害の意思はなく、また、控訴人常寿も控訴人秀雄と同居はしているもののそれぞれ別の仕事をしていたのであるから、本件贈与が被控訴人を害することになるなど知る由もなかつた。
(四) 詐害行為取消権行使の範囲は債権者の詐害行為発生前の債権額に限定されるところ、被控訴人の右債権額としては本件貸金残元本二三五二万五二六〇円であり、被控訴人が詐害行為取消を求める対象の土地も右金額の範囲内に限定されるべきである。
4. 右2、3の主張に対する被控訴人の反論
(一) 控訴人らの無資力についての自白は、原審の最終弁論において裁判官の求釈明に対し、控訴人らの代理人が傍聴席にいた控訴人秀雄に質した上で答えたものであるが、控訴人秀雄は、被控訴人から他の不動産を差押えられることを恐れて、自分が他に不動産を所有すること及びその内容を代理人にさえ話していなかつたのであり、右自白は自己の資産を秘匿するためになされたもので、控訴人らに何ら錯誤はない。
(二) 今日個人の財産は秘匿事項とされ、特に控訴人秀雄のように居住地以外の市町村に所有する財産については調査不可能である。しかも、控訴人秀雄は原審で無資力について自白するほど他の不動産を秘匿していたのであるから、被控訴人が同控訴人の財産を調査できなかつたのは当然である。また、住居及びその敷地と田地を対比した場合、いずれが人間の生活にとつての基盤であるかといえば、それは明らかに前者であり、田地はその手段に過ぎないのであるから、被控訴人が本件詐害行為取消の対象として田地を選択したことが権利の濫用になるものではない。
三、証拠の関係<略>
理由
一、請求原因1項(一)ないし(五)の事実については、控訴人らの前記主張に対する判断として次の説示を付加するほか、原判決理由一項1ないし3記載の説示と同じ理由でこれを認めることができるので、右記載を引用する。
原審証人高橋隆次及び同三森義助の証言によれば、控訴人秀雄は被控訴人六郷支店と当座・普通・定期預金、手形貸付などの取引があつて被控訴人にとつての得意先であつたため、同控訴人が来店した際は応接室に招き入れ、書類などを作成する場合も応接室において担当者の面前で署名捺印してもらうのを常としていたこと、昭和五七年当時控訴人秀雄は自ら自動車を運転していたので眼が悪いようには見受けられなかったこと、本件貸金について期限の利益喪失後被控訴人の担当者が何度も控訴人秀雄に対し本件貸金の請求をしたが、控訴人秀雄は、その際主債務者の佐藤に払わせる、自分を信用してくれなどと述べたが、同控訴人に本件貸金や保証責任を否定するような言辞はなかったことが認められ、その他信用金庫取引約定締結の際控訴人秀雄は自分の印鑑登録証明書(甲第二号証)を被控訴人に差出していることなどに徴すると、控訴人らの主張は採用できない。
二、詐害行為について
1. 請求原因2項(一)の本件贈与の事実は当事者間に争いがない。
2. 本件贈与の詐害行為性について
(一) 本件贈与の結果、被控訴人が控訴人秀雄に対する本件債権の満足を完全には受け得なくなったことにつき、控訴人ら(正確には、詐害行為取消訴訟の被告となるのは受益者または転得者に限られ、債務者はこれに含まれないので、控訴人常寿のみを指すことになるが、共通の代理人が区別しないで記載している関係上、以下の記述では単に「控訴人ら」とする)は、原審でしたこれを認める旨の陳述を撤回すると主張しているので、その可否を検討する。
詐害行為取消権の客観的要件である主要事実は、債務者が債権者を害する法律行為をしたことであるが、債権者を「害する」とは、具体的には債務者の財産処分行為によつて債務者の一般財産が減少し債権者が満足を得られなくなること、即ち、債務者の消極財産の総額が積極財産の総額を越え、債務超過又は無資力になることであるから、「本件贈与の結果、原告が被告秀雄に対する本件債権の満足を完全に受け得なくなつたことは認める」旨の控訴人らの陳述は、控訴人らが主張するような間接事実についての自白ないし権利自白ではなく、右主要事実についての自白に該る。
そこで、右自白が真実に反しかつ錯誤に基づくものであるか検討するに、いずれも成立に争いのない乙第一五、第一七、第一八号証、第二〇ないし第二二号証、当審における控訴人後藤秀雄本人の供述により成立の認められる乙第一四、第一六、第一九号証及び右控訴人本人の供述によると、本件贈与がなされた昭和六〇年一一月二五日控訴人秀雄は本件農地以外に数筆の土地及び建物を所有していたことが認められ、その他に本件宅地を所有していたことは当事者間に争いがないところである。しかし、控訴人秀雄が本件農地以外に右不動産を所有していたからといつて、当時におけるその価額が必ずしも明確とはいい難い面もあつて、直ちに被控訴人が他の不動産により本件債権の満足を完全に受け得ることができたか、即ち、本件贈与により本件債権の満足を完全には受け得なくなつたという控訴人らの自白が真実に反するということになるのか疑問なしとしない。仮にこれが真実に反するとしても、控訴人秀雄は原審の第一三回口頭弁論において裁判官の求釈明について代理人から尋ねられ、傍聴席からこれに答えて、代理人がこれを受けて前記控訴人秀雄の無資力を認める旨陳述したとの情況に関する当事者双方の陳述は一致しているところ、控訴人秀雄自身の資産状況についての応答であるから控訴人秀雄が錯誤に基づいて答えたとみる余地はない。むしろ控訴人秀雄は、被控訴人により他の不動産が差押えられることを回避するためにあえて他の不動産を秘匿して右自白するに至つたとの疑いが濃厚である。
控訴人らは、耳の悪い控訴人秀雄が求釈明の意味を理解せずに勘違いして答えたと主張するが、当審における控訴人後藤秀雄の供述によれば、聴力が落ちたのは原審判決を受けたショックからであり、その前は特段の支障はなかつたというのであるから、裁判官の求釈明に対する代理人を介しての応答であることを勘案すれば尚のこと、右主張は採用できない。
従つて、控訴人らの自白の撤回は許されないものである。
(二) 原判決理由二項2の(二)の記載(原判決八枚目裏一〇行目冒頭から一〇枚目裏一〇行目末尾まで)に次のとおり付加、補正した上、これを引用する。
原判決九枚目裏二行目冒頭の「こと、」の次に「この間控訴人秀雄は被控訴人に対し、本件貸金や本件保証について異議を唱えたり、これを否定することはなく、保証債務を負担することを前提とした言動に終始していたこと、」を加え、同面九行目の「原告」を「被告秀雄」と訂正し、一〇枚目裏五行目の「生じなかつた。」の次に「このことは、昭和五五年五月一日控訴人秀雄と控訴人常寿との間で、本件農地につき期間を昭和六五年一二月三一日までの一〇年間とする使用貸借契約を締結して農業委員会の許可を受けており(成立に争いのない乙第一、第二号証)、その時点で控訴人秀雄が控訴人常寿に本件農地を贈与する意思をなくしたと窺えることからも明らかである。」を、同面一〇行目の末尾に続けて「いずれも成立に争いがない甲第四七ないし第五三号証、第五五号証及び原審における控訴人後藤秀雄本人の供述によれば、右土地改良事業によつて換地処分を受けた土地は、本件農地のうち原判決添付目録(一)の二三ないし二九、三一記載の土地に過ぎず、本件土地を含む本件農地の多くは昭和五五年当時控訴人常寿に対し贈与に基づく所有権移転登記がなされても何ら支障がなかつたこと、また、右土地改良事業は昭和五七年一一月には終了して換地処分がなされ、昭和五八年五月にはその旨登記がなされ、控訴人常寿へ贈与に基づく所有権移転登記を経由するにつき障害がなくなつたことが認められる。従つて、その当時控訴人秀雄において年金取得目的以外に真に控訴人常寿へ本件農地を贈与する意思があれば、本件農地のうち多くは当初から、また、換地処分を受けた土地についても、たとえ控訴人後藤秀雄が当審において供述するように同控訴人において換地の配分に不服で異議の申立をしていたとしても、遅くとも昭和五八年頃には農業委員会に本件贈与の許可申請をして、控訴人常寿への所有権移転登記手続をすることが可能であつた。しかるに控訴人秀雄は、この手続を取らずにいて、佐藤所有の不動産について競売手続が相当進行し、控訴人秀雄も保証人としての責任を問われることがほぼ確実となつた頃になつてようやく農業委員会に本件贈与の許可申請をなして、控訴人常寿への所有権移転登記を経由したのであり、このことからも、控訴人秀雄の詐害の意思を推認することができる。」を加える。
(三) 本件贈与当時控訴人秀雄が本件農地以外の不動産を所有していたことは控訴人ら主張のとおりである。しかし、この不動産は、本件宅地以外はすべて控訴人秀雄の居住地の仙南村以外の横手市に所在するもので、控訴人らは、原審口頭弁論において前記のような自白をしたように、これらの不動産を所有していることをことさら被控訴人に秘匿するような態度に終始していたのであり、さらに、右不動産のうち一筆の土地は本件贈与に基づく控訴人常寿への所有権移転登記を経由した直前の昭和六一年五月七日他へ譲渡され、その他の不動産も随時他へ譲渡されたのであり、前記のように控訴人秀雄が不自然な時期に本件贈与につき農業委員会へ許可申請をして控訴人常寿への所有権移転登記を経由したのである。これらの事情に徴すると、控訴人秀雄は、主債務者である佐藤所有の不動産についての競売手続が相当進行して、控訴人秀雄においても保証責任が免れなくなつた時期に、被控訴人による控訴人秀雄所有の不動産に対する差押、執行がなされる事態を回避、潜脱するために、まず居住地の仙南村に所在する本件農地すべてを長男の控訴人常寿に贈与して、同控訴人の所有名義に移した上、控訴人秀雄の所有であることが被控訴人には容易に発覚しそうもない横手市所在の他の不動産については順次他へ売却したと考えることができる。そうすると、控訴人秀雄が本件農地以外に本件宅地を含めて他に不動産を所有していたことは、本件贈与の当時控訴人秀雄に詐害意思があつたことの認定に何ら妨げとなるものではない。
3. 控訴人らの権利濫用の主張について
農業を営む者にとつても農地より現に居住している居宅の敷地である宅地の方が生活の基盤であつて重要であることは言うを俟たないのであり、まして原審及び当審における控訴人後藤秀雄本人及び控訴人後藤常寿本人の各供述によれば、控訴人らはいずれも農業以外の仕事もしていて、ことに控訴人常寿は自宅に測量士の事務所を構えているというのであるからなおさらであり、さらに、控訴人秀雄自ら他の不動産を秘匿する態度でいながら、被控訴人の控訴人秀雄の財産についての調査不足を論難するのは筋違いであり、被控訴人が本訴で詐害行為取消を求めている土地は控訴人常寿に贈与された本件農地四一筆のうち一八筆に過ぎないことなどを勘案すると、被控訴人の詐害行為取消権の行使が権利の濫用になるとは到底認められない。
三、抗弁について
原判決一一枚目表七行目冒頭の「ものであること、」の次に「本件土地を含む本件農地の多くは昭和五五年当時から控訴人常寿に対し所有権移転登記を経由するに支障はなく、換地処分を受けた土地についても昭和五八年頃までには右登記を経由するにつき障害がなくなり、いつでも右手続ができる状態になつたのに、それから約二、三年後の控訴人秀雄が本件保証責任を問われることが確実になつた頃にようやく農業委員会へ本件贈与の許可申請をして、控訴人常寿への所有権移転登記手続をしているという、時期的に不自然なこと、」を加えた上、原判決理由二項3(同一一枚目表初行から末行まで)記載の説示を引用する。
四、詐害行為取消請求の範囲について
1. 被控訴人が控訴人秀雄に対し本件貸金残元金二三五二万五二六〇円及びこれに対する昭和六一年一一月一一日から支払済みまで年一五パーセントの割合による遅延損害金債権を有していることは、前記認定のとおりである。しかして、詐害行為取消権行使の範囲は、取消債権者の詐害行為当時の債権額を標準にして決められるべきではある。しかし、本件のような詐害行為前に成立した貸金債権に関して債務者の債務不履行により詐害行為後に生じた遅延損害金などは、もともと元本債権の拡張物であつて法定果実に類する性質を有するものである。また、債権者の債権回収が遅れて右損害金が累増したのは、債務者が詐害行為をしたためであるから、これは詐害行為取消権行使によつて保全されるべき債権額に加算されるべきである。
本件においては、昭和五八年一二月二九日期限の利益を喪失した後主債務者の佐藤からは本件貸金についてほとんど弁済がなく、控訴人秀雄は被控訴人の再三の請求にもかかわらず、佐藤に支払わせる旨答えるだけで、自ら弁済しようとせず、約三年間弁済しない遅滞の状態が継続した後佐藤所有の不動産に係る競売配当金をもつて昭和六一年一一月一〇日までの遅延損害金は全額支払済みになつたのではあるが、控訴人秀雄は、本件貸金について全く弁済する意思もなく、遅滞が続いて遅延損害金が累積するのを知りながら、その最中の昭和六〇年一一月二五日長男に本件農地四一筆すべてを包括的に贈与するという詐害行為をなしたのであるから、遅延損害金についても詐害意思を有していたと目することもできるのであり、この観点からしても詐害行為である本件贈与があつた後に生じた遅延損害金も詐害行為取消権の被保全債権額に加算されるべきである。
しかして、被控訴人は、本件貸金残元本二三五二万五二六〇円及びこれに対する昭和六一年一一月一一日から当審口頭弁論終結前の平成三年二月二七日までの年一四パーセント(約定の年一五パーセントより一パーセント減縮している。)の割合による遅延損害金一四一四万八六七〇円の合計三七六七万三九三〇円を被保全債権額として詐害行為取消権を行使しているので、その範囲で右行使を認め、対象土地を選別することにする。
2. 成立に争いのない甲第七八号証(横手市金沢町農業協同組合の平成二年八月一〇日付価格回答書)によると、本件土地の所在地である秋田県仙北郡仙南村金沢字森先地内の田の価額は一〇アール当たり約一四〇万円であることが認められ、成立に争いのない乙第二七号証(仙南村農業委員会の平成元年一〇月四日付回答書)によると、本件土地の価額は一〇〇〇平方メートル(一〇アール)当たり一六五万円であることが認められる。しかして、後者は本件各土地の評価額として算出してはいるが、一律に一〇〇〇平方メートル当たり一六五万円と算出しているので、前者の評価方法とほとんど変わりがないものとみられ、また時期的に後になされた評価の方が低廉という結果になつているので、本件土地の評価額としてどちらがより正確かにわかに断じ難い。従つて、その平均値を取つて一〇〇〇平方メートル(一〇アール)当たり一五二万円(一〇〇〇円以下切捨)を本件土地の価額と定め、本件土地の価額を算出すると、別紙「本件土地価額表」記載のとおりとなる。そして、詐害行為取消権の行使を最小限に止めるようにその対象となる土地を選別すると、被控訴人が詐害行為取消権を行使し得る土地は、本件一ないし六、九ないし一四及び一六の土地合計一三筆(価額合計三八一八万二四〇〇円)となる。
3. 従つて、被控訴人の詐害行為取消請求は、右一三筆の本件土地についての本件贈与を詐害行為として取消し、控訴人常寿に右各土地につき所有権移転登記の抹消登記手続を求める限度で理由があるが、その余は失当である。
五、よつて、原判決中、被控訴人の詐害行為取消及びこれに伴う所有権移転登記抹消登記手続請求をすべて認めた部分を主文一項1ないし3のとおり変更し、貸金請求に係る控訴人秀雄の控訴は棄却することとし、民事訴訟法三八四条、三八六条、九六条、九五条、八九条、九二条、九三条に従い、主文のとおり判決する。
<別紙>
物件目録
一 秋田県仙北郡<編集注・略>一六番
田 二一六一平方メートル
二 同所一八番一
田 二四一〇平方メートル
三 同所一九番一
田 二八一一平方メートル
四 同所二一番
田 一七二五平方メートル
五 同所二二番
田 一四〇四平方メートル
六 同所二三番一
田 一五四四平方メートル
七 同所一七番一
田 六九九平方メートル
八 同所二四番一
田 一一八一平方メートル
九 同所二五番一
田 三〇四六平方メートル
一〇 同所二六番
田 二七七六平方メートル
一一 同所二七番一
田 一二八七平方メートル
一二 同所二八番一
田 一五一九平方メートル
一三 同所二九番一
田 一二八一平方メートル
一四 同所四二番
田 二一一二平方メートル
一五 同所四三番一
田 五一〇平方メートル
一六 同所四三番二
田 一〇四四平方メートル
一七 同所四四番一
田 五六九平方メートル
一八 同所四七番
田 一二〇六平方メートル
本件土地価額表
(一〇〇〇平方メートル当たり一五二万円)
本件土地一(地積二一六一平方メートル)
三二八万四七二〇円
同 二(同 二四一〇平方メートル)
三六六万三二〇〇円
同 三(同 二八一一平方メートル)
四二七万二七二〇円
同 四(同 一七二五平方メートル)
二六二万二〇〇〇円
同 五(同 一四〇四平方メートル)
二一三万四〇八〇円
同 六(同 一五四四平方メートル)
二三四万六八八〇円
同 七(同 六九九平方メートル)
一〇六万二四八〇円
同 八(同 一一八一平方メートル)
一七九万五一二〇円
同 九(同 三〇四六平方メートル)
四六二万九九二〇円
同 一〇(同 二七七六平方メートル)
四二一万九五二〇円
同 一一(同 一二八七平方メートル)
一九五万六二四〇円
同 一二(同 一五一九平方メートル)
二三〇万八八八〇円
同 一三(同 一二八一平方メートル)
一九四万七一二〇円
同 一四(同 二一一二平方メートル)
三二一万〇二四〇円
同 一五(同 五一〇平方メートル)
七七万五二〇〇円
同 一六(同 一〇四四平方メートル)
一五八万六八八〇円
同 一七(同 五六九平方メートル)
八六万四八八〇円
同 一八(同 一二〇六平方メートル)
一八三万三一二〇円